渡辺恒雄
「日本の首相の靖国神社参拝は、私が絶対に我慢できないことである」 今後誰が首相となるかを問わず、いずれも靖国神社を参拝しないことを約束しなければならず、これは最も重要な原則である。・・・もしその他の人が首相になるなら、私もその人が靖国神社を参拝しないと約束するよう求めなければならない。さもなければ、私は発行部数1000数万部の『読売新聞』の力でそれを倒す。

膳所狒々新報

寒々冷え冷えとしたニュースコメントブログ:旧名「冷凍力の膳所狒々日記3」

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資料 自称ハト派の無国籍者の田母神批判

KY空幕長の国益空爆
不用意な情報発信は危機管理意識の死角から

* 2008年11月5日 水曜日
* 伊東 乾

軍紀  愛国  軍人宣誓  指揮系統  危機管理  航空自衛隊  ノーベル平和賞  アポリティカル  マイク・ホンダ  空幕長  米下院従軍慰安婦謝罪決議  田母神俊雄  バラク・オバマ  アメリカ大統領  情報発信  インテリジェンス  スウェーデン  4軍統合司令官  文民統制  ワシントン・ポスト 

 この記事がオンエアされる日本の11月5日は、米国は大統領選挙の真っ最中に当たります。そこで今回は大統領選挙と金融不安対策を、一連のノーベル賞の話題とも関連づけてお話しよう…などと思っていたところ、トンでもない話が降ってきました。

 航空自衛隊の田母神俊雄・前空幕長の「論文」と「更迭」の問題です。ちょっと調べてみて、これは触れないわけには行かないと思いました。先に結論を言えば、不用意かつ「あなた任せ」の情報発信は危機管理意識の欠如としか言いようがなく、KY=「空気読めない」自衛隊最高幹部が日本の国益を空爆しているのと変わらない。ノーインテリジェンスです。いかにそれが無思慮かつ丸腰か、ポイントを具体的に指摘してみましょう。

「定年退職」で済む問題か?

 田母神氏の処遇をめぐって防衛省は大揺れしたとのことですが、3日の夕刻、結局「定年退職」という形に落ち着きました。懲戒もなく、役場にとって最も「傷の浅い」収拾策が取られたとのことで、数千万円に及ぶ退職金も支払われるようです。

 明けて4日、防衛省は増田次官以下に減給などの処分を下すほか、浜田防衛相も閣僚給与の一割を自主返納、麻生総理も「再発防止」を厳重に指示しましたが、当の田母神氏は3日夜に読み上げた「退職にあたっての所感」の様子を見る限り、問題の本質的ポイントを一切理解していないように見えます。田母神氏の主張は「自分は信念を持って正しいことを言ったのだ」という一点に尽きていますが、軍の指揮系統下にあって下僚が勝手に信念で上官の方針に背いているという実態や、それが引き起こす想定外のリスクなどに全く気がついていません。

 防衛省は給油法案など「連休明けの国会審議」あたりを気にしての処理と報道は伝えていますが、今回の問題の本質はそんなところにはありません。

 見出しでは「KY」などと軽い表現をとりましたが、この問題はサンフランシスコ講和条約以来の日米関係に影響を及ぼしかねない「国難」だったことを、どれほどの関係者が理解しているのか、疑われます。厳重な再発防止のためにも、今回の件、そしてそれが今現在も持っているリスクまで含め、細かに検討する必要があると思います。

事実経過から

 そもそも、11月3日、最後まで無届で行われた「退職記者会見」で「これほどの大騒ぎになるとは予測してなかった」と語っているところで、すべて致命的なのですが、まずは順番を追って考えてゆきましょう。

 不動産関連企業アパグループは10月31日今年5月10日から「『真の近現代史観』懸賞論文」の募集を行い、渡部昇一氏を審査委員長として230 通超の応募作を審査の結果、田母神俊雄氏(60 航空幕僚長)の「日本は侵略国家であったのか」を「最優秀藤誠志賞」に選出、懸賞金300万円と副賞として全国アパホテル巡りご招待券を授与すると発表しました。

 田母神氏の「論文」は「我が国が侵略国家だったというのはぬれぎぬだ」として、旧満州・朝鮮半島の植民地化や第2次大戦での日本の役割を正当化し、集団的自衛権の行使を禁じる現行憲法に疑問を呈する、現在の政府見解を否定する内容でした。

 防衛省詰めの報道各社に報道発表文が配布されたことから事実が明るみに出、政府は事態を重く見て直ちに対策を協議、浜田靖一防衛相は31日夜、田母神氏の更迭を決め、深夜の持ち回り閣議で航空幕僚監部付とする人事が承認されました。

戦後50年目に確立された「村山談話」

 現在の日本国政府の、この問題に関する正式見解は、第2次世界大戦終結から50年目にあたる1995年8月15日、当時の村山富市首相名で発表されたいわゆる「村山談話」が採用されており、麻生太郎首相も就任早々これを踏襲する旨を明らかにしています。念のため村山談話の当該部分を引用しておきましょう。

 「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

 「敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に、わが国は、唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。」

弛みきった軍紀こそ最大の問題

 多くの報道が「田母神論文」の内容についてすでに批判していますので、ここではそれを繰り返すのではなく、やや異なる2つの指摘をしたいと思います。連載をご覧の読者はご存じのように私はかなり徹底したハト派ですが、建設的な批判は相手の立場に立たなければできません。大学で教養学部の1年生などを教えていると、いろいろな考え方の学生がいます。教師である私とは立場の違う意見の学生も多いですが、指導するときには、相手の立場に立って話さないと教育的効果がありません。それと一緒にするようで恐縮ですが、私自身が今回は防衛当局の立場に立ったものとして、以下の議論を進めたいと思います。

 田母神氏の第一の問題は、政府、防衛省の観点から見るとき、危機管理体制としての情報統制が全くとれていないことです。これをまず指摘しなければなりません。

 昨年の2月、私はNHKの「地球特派員」という番組の取材でアメリカ、ノースカロライナ州フォートブラッグ基地に体験入隊して、インタビューや訓練参加などしたのですが、そのときの軍人たちの、発言への気の張りようは大変なものでした。

 彼らの最高司令官は大統領である「ジョージ・ブッシュJr.」で、その施策へのあらゆる論評は「軍務規定違反」とされ、職位を失う理由とされてしまうからです。憲法の保障する個人の内心の自由とともに、軍人としての宣誓=契約と義務の履行への強い意識は、大変印象的でした。

 ところが今回の田母神氏のケースでは、空幕長という責任ある立場にある者が率先して防衛省の内規をおろそかにしており、しかもそのけじめ、歯止めが完全に不在、まったく無自覚であることを露呈しています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/
 内規で、隊員が職務に関する意見をメディアなどで発表する際、必ず文書で上司に届けなければなりません。空幕長は官房長に連絡する必要がありましたが、田母神氏は「論文」を「職務に関係ない、個人的な研究内容」と強弁し、正式な文書報告を怠り、背広組には口頭連絡だけでお茶を濁して、かつての「来栖発言」以来の問題を起こしてしまいました。

 こういう状況を「軍紀の乱れ」と言います。命令系統を将官が率先して混乱させるという意味では戦前の関東軍が暴走するのと本質的に変わりがない、という事実を、もっとシリアスに認識すべきです。

 ところが、「定年退職」の処遇が決定した11月3日夜、田母神氏は平服での記者会見を、やはり防衛省内局などへの報告を怠ったまま省外で行いました。すでに自衛官ではない、というつもりなのかもしれませんが、立つ鳥後を濁さずの言葉もあるとおり、もし一軍の将として最後の記者会見をしたのであれば、内局への報告は不可欠だったと思います。その辺りの公私の「使い分け」をしてしまうところが、田母神氏最大の問題の一つでもあります。

指揮系統の混乱を宣伝するべきか?

 田母神氏はすでに今年4月、空自のイラク活動を違憲とした名古屋高裁判決に関して、あろうことか、お笑い芸人のギャグを引用して「そんなの関係ねえ」と失言、慌てて「表現が不適切であり、判決自体には異論を述べる趣旨ではなかった」と釈明しています。これでは転んで受身を覚えない将官ということになります。

 調べてみると、ご本人はむしろ良心的なつもりで「将官の説明責任」を大切に考えているらしいことも読みました。それが自衛隊体内のガス抜きになっているとも聞きますが、これらすべて根本的なところで間違っているという自覚がありません。

 米国のピリピリした空気と比較すれば、まさに不用意な情報発信がいかにリスキーか、という危機管理意識の欠如を指摘せねばなりません。

 「定年退職記者会見」で田母神氏は「解任は断腸の思い」としながら「自分は誤っているとは思わない。政府見解は検証されるべきだ」と述べています。現役で空自を指揮する立場にあった者が、上官の命に反してこのような内容を語ること自体が、そもそも大間違いであることが分かっていません。「説明責任」という言葉の意味を、正確に学びなおす必要があります。

 最後に至ってもこんな記者会見をしているのでは「日本国自衛隊は、指揮系統が完全に崩壊している」と、自軍の命令ラインが成立していないことを将官自ら触れ回っているようなものです。それが分からないのでしょうか? もし米国でこれが起きたなら、即座に懲戒以上の措置がとられるはずです。法に明確に定められているとおり、自衛隊の最高司令官は内閣総理大臣で、内閣総理大臣の方針と異なる意見は軍内部で議論すべきものであって、現役の指揮官がマスコミを呼んで演説することはあり得ません。軍紀の基本が完全に成立していないのです。

 旧海軍では「軍人は政治を論ぜず」として「沈黙の艦隊」サイレント・ネイビーということが言われたそうです。私は本来、この「サイレント・ネイビー」の軍人精神に大変疑問があり『さよなら、サイレント・ネイビー』という本も書きました。

 ところが今回は当の軍人のトップが率先して、混乱した情報を発信するのは、ただただ国益棄損に直結していることに、むしろ軍人が敏感であるべきではないかと、思わず心配になってしまいました。「文民統制」に不満があるのかもしませんが、これでは国内でも、世界にも、一切通じません。

本人も周囲も全く自覚していない、こうした軍紀の弛みが、自衛隊としては一番の問題で、省内からも苦情続出という意味を、ご本人が正確に理解しなければいけません。「記者会見」を報道したメディアが全く気づいていない様子なので、第一に指摘したく思います。

「オバマ大統領」は史上初の「真の米文民統制」

 改めて強調しますが、現在誰もが認める世界最強の武力、アメリカ国防軍の場合、陸海空+海兵隊、米国4軍の統合司令官は米国合衆国大統領であります。大統領は「文民のトップ」ではなく「文武両官」の最高司令官です。バラク・オバマ候補がアメリカ合衆国大統領に選出されれば、史上初めて非白人系の米国陸海空軍総司令官が誕生することになります。また日本への原爆投下の最終決定を下したのは大統領のハリー・トルーマン総司令官です。現在投票が進んでいる米国大統領選が、国防軍のトップを(選挙人を経由した)民衆の投票で選ぶシステムであることを確認しておきましょう。

 私はノースカロライナのフォートブラッグ基地では多くの兵士と友達になりましたが、彼らは徹底して「アポリティカル」非政治的な発言に終始しました。なぜなら「軍人宣誓」をしているからです。米国では現在でも、聖書に手を置いて軍人としての宣誓を行います。

 兵士として給料を貰っている間は、政治的な発言は一切できません。絶対にしてはいけないのです。もし破れば、命令系統が混乱した弱っちい軍隊だと喧伝することになるからです。また退官後も守秘義務があり、それを守る代償として終身年金が与えられます。しかし退官後は個人の政治的発言が許されるようになります。そうなって初めてコリン・パウエル元統合参謀本部議長が「共和党政権の国務長官」にもなれば「民主党政権の外務担当」にもなり得るのです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/?P=2
 田母神氏は「政府見解に一言も言えないのでは北朝鮮と同じだ」と述べたようですが、それは「米国陸海空軍とも同じだ」と、正確に訂正されなければなりません。国会への参考人招致にも応じるとのことですので、「持論」以前にまず己の職務を規定する法規から、きちんと点検しなおさないと、航空自衛隊全体の見識を疑われることを指摘したく思います。間違いなく、良心的な武官がたくさん、頭を抱えているはずです。

 ちなみにワシントン以来ジョージ・ブッシュJr.までの歴代の大統領は例外なく軍歴があります。しかしバラク・オバマ氏には軍歴がありません。日本ではあまり強調されていませんが、彼が当選すれば、単に「アフロ・アメリカンの大統領」というのみならず、米国史上初めて、本当の意味での「文民統制」つまり制服を経験していない三軍総司令官が誕生するわけです。これは米国にとってリンカーン以来、いやワシントン以来の革命的な出来事なのですが、そういうアメリカの選挙に合わせて「田母神空爆論文」問題が噴出してきたわけです。

「論文」以前の「打ちっぱなしメモ」

 指摘したい第二の「内容以前の問題」は、「論文」などと呼ばれている、このワープロ打ち9枚の文書の「脇の甘さ」です。

 一国の軍務のトップに立つ者が、仮に「個人的」といっても「研究」の「論文」のといって、こんな丸腰の文章に自分の名と役職を付して出している無防備さを指摘しなければなりません。

 田母神さんは防大で電気工学を専攻したそうですが、防大の電気電子の教官は、例えば実験レポートで無検証の印象を羅列したものに「可」以上の成績を出したのでしょうか? さらに、資料によれば田母神氏は「統合幕僚学校校長」も務めたといいます。そんな人物が

 「竹島も韓国の実行(ママ)支配が続いている」

 などと、誤変換そのまま、(言うまでもないですが「実効」支配)、ワープロ打ちっぱなしで、副官の査読などチェック機能の働いていない文書を出すのが、そもそも用心が足りません。

 「定年退職記者会見」では、問題以前のやり取りが見られました。報道陣でしょうか、「論文は本や雑誌の引用がほとんどで独自の研究とは言いがたい」と指摘するのがそもそも大間違いで、不用意な引用とは無関係に、文書の末尾にはいきなり、それまでの議論と無関係に「イイタイコト」が天下りで出てきます。論証の手続きが踏まれていませんが「独自の見解」ではあります。しかし「研究」ではありません。ただ「イイタイコト」を言っているだけで、そのまわりに直接は無関係なエピソードが並んでおり、論理的な整合性は認められません。

 もし私の学生が「レポート」としてこういうものを出してきたら「これは大学以上のレベルでレポートとは言わない。<メモ>である。再提出」と差し戻すことにしています。

 この「メモ」には、整理された引用出典や参考文献、論拠の一覧などがなく、章立ても整理もない、誤変換を含む文章がだらだらと続いているだけで、「論文」などと呼ぶことが、そもそも誤解を生みますから、以下では二重に括弧をつけて「<論文>」と書くことにしましょう。

 しかも困ったことに、田母神氏本人が「書かれたものを読んで意見をまとめた。現職なので歴史そのものを深く分析する時間はとれない」などと、やっつけのメモに自分の名と職位を記して不用意に公開したことまで明かしてしまっています。これは自覚したほうがよい誤りです。

 具体的に中身を見てみましょう。

田母神「<論文>」を検討する

 以下は「引用」ではなく、論理的な整合性なく末尾に突然出てきた「イイタイコト」の一部です。

 「文明の利器である自動車や洗濯機やパソコンなどは放っておけばいつかは誰かが造る。しかし人類の歴史の中で支配、被支配の関係は戦争によってのみ解決されてきた。強者が自ら譲歩することなどあり得ない。戦わない者は支配されることに甘んじなければならない。」(「日本は侵略国家であったのか」田母神俊雄 p.7)

 これでは、したたかなロジックの展開としては通用しません。もし誰かの「引用」として出典を明記すれば、まだなんとかなりますが、ここでは根拠なしに単に断言してしまっているので、もし交渉ごとなどで、その点を突かれれば、論破されて負けです。脇が甘いのです。きちんと添削的に指摘するならば

◎「戦争によって<のみ>」とあるが、本当に<のみ>であるか? 

←<のみ>という表現は、一つでも反例を出されたら論拠が崩れてしまう。もっときちんとした推敲を勧める。

◎「強者が自ら譲歩することなどあり得ない」云々

←同様に「あり得ない」と言い切れば「ある」と反例を出された時点で負けてしまう。

 例えばスウェーデン政府は「ノーベル平和賞」の胴元となることで、激動の20世紀100年間、武装中立国家として、ヒトラーのナチスドイツ(ノルウェーまで進駐)、スターリンのソ連(フィンランドまで進駐)双方の武力侵攻を政治的に防ぐ巧妙な外交戦略を成功させている。一つの反例で容易に崩れる断言口調では粘り強い交渉には耐えない。より強靭な論の建て直しを勧める。

 などと指摘しなければなりません。

 もうひとつ、読者のために、根拠なしに記された「イイタイコト」を引いておきましょう。 この答案にはすぐに論破されてしまう弱点がいくつかあります、それはどこでしょうか? またこれを強くするには、どのようにすればいいでしょうか?

 「人種平等の世界が到来し国家間の問題も話し合いによって解決されるようになった。それは日露戦争、そして大東亜戦争を戦った日本の力によるものである。」(「日本は侵略国家であったのか」田母神俊雄 p.7)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/?P=3
あり得ない「国際発信」

 今回の「懸賞」は主催者企業が最初からシナリオとスケジュールを書いたものだと思われます。

 発表時点ですでに「英訳」が作られており、賞のホームページから「日本語版」と「英語版」がダウンロードできるようになっていました。日本国には憲法の保障する表現の自由があります。その上で、この「英語版」はかなり露骨に、国益を損ねる情報発信になっていることを指摘せねばなりません。

 敢えてリンクは貼りませんが、ご興味の方はグーグルで「アパグループ 真の近現代史観」などの鍵語で検索すれば、実物をごらん頂けます。

 これを見て第一に想起せざるを得なかったのは、昨年6月14日に従軍慰安婦問題に関する「意見広告」がワシントンポストに載り、それが引き金となって、日系のマイク・ホンダ下院議員(民主)が提出した「従軍慰安婦問題について日本政府が歴史的責任を認め、公式に謝罪するよう求める決議案」が可決されてしまった経緯でした。

「ワシントンポスト」での自爆広告

 日米交渉を決定的に不利にした、このトンでもない決議の引き金を引いたのは、屋山太郎、櫻井よしこ各氏らと国会議員44名の連名で出した「真実」と題する従軍慰安婦(性奴隷)強制否定の「全面広告」でした。ワシントンポストの一面をまるまるつかって

1.日本軍は業者に強制して慰安婦にしてはいけないと警告していた

2.警告に反し処罰された業者もいた

3.オランダ領インドネシアでは誘拐事件が発覚し慰安所が閉鎖

4.米議会証言は、元慰安婦の証言に基づくというが、裏づけがない

5.売春は当時合法だった。

 といった内容を主張するものでした。

 いま米国の、もっとも常識的な市民層が読める形でこういう言葉が並ぶと、いったいどういう反応を引き起こすか、何が起きるのか、一切の空気を読まない「情報発信」ならぬ「ストレス発散」で、この記事は明確に日本の国益を害する結果、米国議会による「反日決議」を呼び込んでしまいました。

 この意見広告は、同紙に直前の4月26日に載った韓国系団体が出した意見広告への「反論」だったそうですが、マイク・ホンダ下院議員はもとより、親日派の最長老で、唯一の日系上院議員、穏健派のダニエル・イノウエ氏(民主)らすら、強烈な不快感を表明し、米議会での日本政府への謝罪決議案可決を導きました。このため多くの外交官が進める多数の交渉に圧倒的な不利が生じ、著しく国益が毀損されたと聞いています。

もしこれがドイツだったら

 この「国益自爆広告」には多数の国会議員も署名していましたが、主にリードしたのは評論家など民間サイドと考えられています。しかし、今回の田母神「<論文>」は、民間企業が準備したレールの上とはいえ、現役の航空自衛隊幕僚長たる重責の人物が、名と職位を添えて、日本語ならびに英語で、政府見解と真っ向から対立する内容を国際発信するという、過日の中山前国交相の自爆なみに、通常では考えにくいことが起きてしまっている。

 その影響の甚大さが事前に読めなかったとすれば、申し訳ないですが、まさに「空気読めない」KYとしか言い様がありません。現役武官が、しかも今のような国際情勢のタイミングでこんなことをすれば、国益を直撃することが、なぜ判らないのか。ただただ理解に苦しみます。

 この「<論文>」は要するに、現役のドイツ空軍総司令官が「第2次世界大戦中、ナチスドイツはポーランドで酷いことをしたかもしれないが、よいこともしていたのだ。アウシュヴィッツもあったかもしれないが、経済が活性化した側面もある」と発言するのと同様の、国際政治上の意味を持ち得てしまうものです。もしこんな空軍総司令官がいたなら、ドイツはいったいどんなことになるか(そんなことはあり得ませんが)。

 しかしこれは、日本国で紛れもなくいま発生しかかったリスクです。防衛関係者は将官を含め、内部の研修その他をこの際徹底的に行うことを、強く勧めたいと思います。これは値引きなしに「国難」です。田母神氏の場合、自覚なしに確信を持っているのが明らかなので、まだ省内に残っている可能性のある、基本ルールの誤解や無理解を是正するのには、かなりの時間と粘り強い教育努力が必要かと思われます。

 今回の田母神空幕長の「<論文>」は、ワシントンポストの意見広告中に、長年外交の最前線に居られた岡崎久彦元タイ大使の名があったのと、やや似たものを感じます。岡崎さんは内容をよく確認せず名を連ねた可能性が高いように思いますが、田母神氏は国際情勢を考えずに、自分個人の信念である「持論」を、時宜と職位の責任感と無関係に発信して「これほどの大騒ぎになるとは予測してなかった」「解任は断腸の思い」と述べているのは、要するに考えてなかった、危機管理の意識が完全に欠落していたことを、自ら素直に吐露しているのだと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/?P=4
 個人として田母神さんという人は、きっといい人なのだと思います。人情家で信望も厚いのでしょう。しかし、現役の航空幕僚長に求められるのは、確かな見識に基づく、脇の締まった危機管理能力で、自分の思いに振り回されて、本心を触れ回るなどということは、将たるもののするべきことではありません。田母神氏は訳がわからないまま「定年退職」となってしまいましたが、問題の根をうやむやにすることなく、後任の幕僚、幕僚長諸官には、その自覚を明確に持ってもらわなければ、麻生首相のいう「再発防止」は絶対に繋がりません。

「あなた任せ」の情報発信スケジュール

 さらに現状では、今回の「<論文>」は、主催者のホームページによれば「受賞作品13件をまとめて(中略)表彰式と併せて出版」することになり「受賞作品はすべて英訳され、広く世界に向けて発信してゆく予定」と記されています。

 この「表彰式および記者会見」は「平成20年12月8日」に行う予定とのこと。田母神氏が言うように「こんな騒ぎ」にはならず、もし断腸の思いである解任もなかったら、つまり今回万が一チェック機能が働かず、この話がスルーしてしまっていたら、一企業が考えたレールに沿って「真珠湾攻撃」の記念日に現役の航空幕僚長が、文民統制をうたう日本国自衛隊の最高司令官、内閣総理大臣と全く異なる意見を公式に表明して、それで賞を受け、300万円と宿泊券という金品も受け取り…考えるだに、あり得ないことが起きていたはずです。

 もし12月8日、真珠湾攻撃の日に、真珠湾攻撃の参謀で後に特殊奇襲攻撃の発案にも加わった、源田實・帝国海軍大佐=第三代航空幕僚長の後任官である田母神氏が、現役の空幕長として「日本は太平洋戦争に引き込まれた被害者だ」と「論文発表」して「賞」を受ける、といった情報を米国当局が手にしたら、どれだけ効力をもつ「カード」として日本を不利に陥れていたでしょうか?

 事は「連休後の国会審議」やら「給油法案」などのレベルではなく、冗談ではなしにサンフランシスコ講和条約以来の日米関係にも影響しかねない、最悪の事態になっていた所でした。

 これは決して過ぎ去ったことではなく、実際に12月8日に空自を去った田母神氏が同様の行動を取ることで、米国を含む諸外国(!)から日本に圧力が加えられる可能性は、いまだ残っています。

 内閣、防衛省には、退任後の田母神氏の行動と明確にケジメを引き、外交に一切の悪影響を与えない対応マニュアルを、早急に準備することを薦めます。

 「ドイツがポーランドに…」という喩えは、全くしゃれになっていません。昨年6月の「ワシントン・ポスト」でマイク・ホンダ決議という地雷を踏んだばかりの日本です。今回の事態は、「定年退職」などでお茶を濁すべきものではなく、自衛官の意識まで踏み込んで、よくよく再検討を必要とする重篤なものです。

 田母神氏のような行動がどうしてありえないものなのか、それを直感的に理解していないとすれば、それは危機管理意識に死角があること、つまり「弱点」以外の何ものでもありません。ここを諸外国から突っ込まれたら、そこから大きく国益を損なうことは、マイク・ホンダの下院決議などと全く同じ構造ですが、今回のケースは武官の現役トップに関することですから、問題は比較にならないほど重大です。

 これは、左翼とか右翼とか、そんなレベルで意見が対立する問題ではありません。不注意によって、まさに国難となり得る状況が生まれかかっていたことを本気で心配します。

 仮に内容の問題にすべて目をつぶっても、これだけ政治的な意味を持ってしまう日程を、一般企業がお膳立てしてしまい、それに「あなた任せ」で乗ってしまった幕僚長の責にある空将が無自覚に国際問題を起こしかけていた、その事実に、心胆寒からしめられる思いがします。

 もし読者が、真剣に自衛隊を大事に考える人であるなら、国際社会から見て「日本のディフェンス・フォースは命令系統も情報統制もめちゃくちゃです」と、あろうことかアメリカが未だにアレルギーを持つ真珠湾攻撃の日に現役の空将が英語で発信することが何を意味するか、考えてほしいと思います。この日程を考えた人は、日米関係をどうするつもりだったのでしょうか?

なぜインテリジェンス皆無に?

 再び強調しますが右翼とか左翼とか、そういうレベルの話ではありません。事件が起きてから、あまり詳しくないので自衛隊関連の資料に目を通したのですが、軍事マニアのような筆者が書いたものに、理系の私が言うのも何ですが、現行法の基本も理解せず、さらに大陸間弾道ミサイルが光ファイバーのヒモがくっ付いたまま飛行するような誤りを記しているものも見つけて、ただただびっくりしています。

 今回の件は軍紀からも外交バランスからも、情報統制としても危機管理としても、ありとあらゆる観点で救いようがありません。インテリジェンスが皆無です。

 正直に申して、田母神さんという人も一軍のトップまで行った人ですから、たぶん人間的にも魅力のある、ちゃんとした方だと思います。意図してここまで無策、丸腰な「KY」を実行しようと思ったのではないでしょう。願わくば、ご自分が気づかずにしかかっていたことを、まずよく冷静に分析するところから、考え直してもらいたいものだと思います。真の「猛将」であれば、まず足元からきちんと点検するはずでしょう。

 これは明らかに、思慮不足による失敗です。実際、任を解かれて「断腸の思い」もしているでしょう。死角がありました。想定の範囲外の部分があった、と自戒しなければ、自身にも、また防衛関係者にも、建設的な教訓は生かされません。

 このコラムには幾度か記したので、連載読者には繰り返しになりますが、私の父は大日本帝国陸軍二等卒としてシベリアに4年抑留されましたし、祖父はベトナム・カムラン湾沖で米国の魚雷によって昭和19年5月14日に撃沈されて命を失っています。母は疎開先の九州・大牟田で米空軍焼夷弾の直撃を受けて、いったん右足と左手が取れました。石原莞爾は戦後、身に寸鉄ひとつ帯びずに米ソの衝突回避を調停する論を立てています。意味合いは違いますが、一定の範囲で徹底したハト派たるべく、私も長年自分なりに思うところがあります。防衛に責任を持つ人には、品格ある見識と、したたかな戦略をもってほしいと思います。

 今回は正直、本当に心配になってしまいました。「これで大丈夫か?」ではありません。これでは、だめ、です。責任ある人にはしっかりしてもらう必要があります。

「愛国」とは何か?

 田母神「<論文>」の結論のような最終部分には

 「日本というのは古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ」

 と、スローガンとして「イイタイコト」が書かれています。

 田母神さんが何を念頭に、こう書かれたのかわかりませんが、私も自分の専門領域では、主に海外で日本の歴史や伝統の美点を強調する話をします。

 ところが、右派系と言われる人と同席して「大切な日本の伝統」などと発言され、「具体的に何が?」と訊ねると、あまりまともな答えが返ってきません。以下は実際にあったやり取りで、ある席でやたらと伝統を強調する人が居られたので、ちょっと考えまして

 「あの…ではちょっとお伺いしたいんですが…例えば宮内庁楽部で舞われる舞楽がありますね。あれ、右方の舞と左方の舞の違いはご存じですよね?」

とか

 「じゃあ別の例で…『能舞台』という舞台空間は、世界の演劇史の中で極めてオリジナルなものとして、たいへんに高く評価されているわけですが、理由を外人向けに説明するとき、どこから強調するといいでしょうね?」

 などと(意地が悪いかもしれませんが)具体的に突っ込むと、言葉に詰まって答えられないことが多い。この手の質問をして、まともな返事が返ってきたためしがありません。

 「じゃ音楽とかでなくてもいいです。具体的に一つでもいい、きちんと例を挙げて、国際社会のみんなが納得する、日本の美点を説明してほしいんですが…」

 なんて言うころには

 「…もう勘弁してくださいよ、もっと素朴な日本人のこころを言いたいだけなんです…」

 などとお茶を濁されてしまう。主として外国向けに日本の伝統や文化をアピールしている私は、このあたりがお寒いのが正直とても不満です。

私なりの「愛国」

 海外では私自身が、生半可な右派どころではない、日本文化の独自性と美点を徹底的、具体的に説明して、相手に完全に納得させるようにしています。

 この際、必ず最初に相手の文化を、表層ではなくその本質から、高いものとして評価、賛美することから話を始めます。自国の文化だけ称揚などという近視眼は、ただ笑われるだけです。

 アフリカの地方の学校に行ったときは、その国の伝統的なドラムや朗誦の文化が、現代の先進国にありがちな、詰まらん商用音楽なぞより、どれだけ素晴らしく誇るべきものか、自覚を持とう! という、見ようによっては極めてナショナリスティックな音楽、芸術の授業と組みにして、物理や数学など国境を越えた科学の授業をします。一元的なグローバリズムに抗う最大の力は地方の力。全国チェーンのファミレスより私は地野菜イタリアンを愛しています。

 国際的な視野で見て、必ず相手も納得する、日本の誇るべき歴史や伝統を具体的に語ることが極めて重要です。この点、右派の論客として知られる東大名誉教授の芳賀徹氏などは、政治的言説は感心しませんが、こうした部分はきちんと押さえていると思います。

 何をもって「国を愛する」というかは大変難しい問題ですが、国際的な文脈での発言は微妙な緊張関係の中で、情報発信のあらゆるタイミングに神経を行き届かせて行うというのは、内容の如何以前に、基本中の基本と思います。一企業の作ったスケジュールに乗って、空幕長が不用意な情報公開など、あってはならないことです。

 私自身が関わっているのは、芸術や学術という限られた場ですが「外交」の基本には全く違いはないと思っています。

 今後の田母神さんの行動を、人物への期待も含めて注目したく思います。

(つづく)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081104/176177/?P=5
オバマ大統領の真珠湾
筑紫さんとの約束と「瞼の母」

* 2008年11月11日 火曜日
* 伊東 乾

筑紫哲也  バラク・オバマ  ハワイ  ダニエル・イノウエ  ノーベル賞  カメハメハ大王  エリック・シンカイ  モンロー主義  スウェーデン  フロンティア  国民国家  移民系アメリカ人  天保の改革  マッキンリー  陸軍参謀総長  インドネシア  混血  刷り込み  立憲君主制  真珠湾奇襲攻撃  暗殺  航空幕僚長  田母神俊雄  米西戦争  併合 

 11月7日、筑紫哲也さんが亡くなられました。まず何よりも、心からご冥福をお祈りしたいと思います。

 読者の皆さんには、国民的に知られたテレビ・キャスターの筑紫さんに様々なご異見もあったと思います。私もいろいろ食い違う意見がありました。でもオバマ当選について僕が一番議論したかったのは筑紫さんです。歴史的な大統領選挙と入れ違いのように筑紫さんはいってしまいました。

 「アメリカの良心」と呼ばれたCBSイブニングニュースのウォルター・クロンカイトを尊敬していた筑紫さんの病室に、オバマ当選の報はどのように届いたのでしょうか?

 実はこの「常識の源流探訪」連載は筑紫さんと深い繋がりがあります。追悼の気持ちを込めて、今回はここからお話を始めたいと思います。

このコラムを始めたきっかけ

 筑紫さんと最初にお目にかかったのは2006年11月、今から2年前で、そんなに古いことではありません。お話ししたのも結局数回でした。ただ、とても大切なご縁でした。「開高健ノンフィクション賞」で強力に私を推薦されたお一人が筑紫さんだったのです。これがなければこのコラムはあり得ませんでした。

 賞が決まった直後、担当編集者から見せてもらった「ちくしよう」(筑紫用=畜生!)と印刷された個人原稿用紙。書かれた激励の言葉、何より勇気づけられました。

 朝日新聞本紙から、伝説の雑誌「朝日ジャーナル」編集長を経て、テレビに転身した筑紫さんは、活字と動画メディアによる情報伝達の違いを肌で知る報道人として、関連の問題に深い関心を寄せていました。開高賞を貰った仕事は、テレビなど音声動画メディアが簡単に人を操作できる脳科学を背景に、友人がオウム真理教にマインドコントロールされた経緯を記したものです。最初にお目にかかった時も、筑紫さんは自分が朝日ジャーナルでプロモートした「新人類」世代が本当に収穫期に入ったのを感じる、いい仕事をたくさんしてくださいと励まされました。

 ご存じかと思いますが、今2008年末、日本から「総合月刊誌」というメディアがほとんどなくなろうとしています。「月刊現代」から「PLAYBOY日本版」「論座」まで様々な雑誌が休刊に追い込まれ、活字メディアは危機、あるいは大きな変質を迫られています。

 2年前私が賞を貰った時も既に雑誌は状況が悪く、以前ならすぐにあった「受賞後のノンフィクション連載」が開始できず、筑紫さんには大変に心配していただきました。結局半年して紙媒体より先に「ウェブ連載」が決まったのが新潮社の連載と、川嶋諭・前編集長からお話を頂いた日経BP、つまりこの連載だったのです。

「このくにの姿」

 去年の5月の連休明け、筑紫さんは新刊『このくにの姿』(集英社)を出版するに当たって、PR対談の相手に僕を指名されました。とてもびっくりしましたが、送られてきたゲラ刷りを見て納得が行きました。本はテレビでオンエアできなかった部分を含め、中曽根康弘、渡邉恒雄といった面々から宮崎駿監督まで、ジャンルを問わない様々な人々との会話を活字にしたものだったのです。以前筑紫さんが「こういう話をしたいね」と言っていた話題でした。

 5月11日、しばらくぶりにお目にかかって、やっと日経の連載が決まりましたと報告すると、100点満点みたいな顔で心から喜ばれました。この日の話は集英社の雑誌「青春と読書」に載っていますが、当日は「待望の日経連載」の見通しについても相談に乗ってもらいました。

 ネット連載なのでメディアミックスを試みたいこと、2008年の北京五輪を目処にブロードバンドが整うので、活字と音声動画を行き来する仕事を立ち上げて、地上デジタル放送が定着するまでに複合メディアを見る健全な社会の目を養っていきたいこと、などなど。

 ただその時、大変に気になったのですが、何か筑紫さんが神様みたいだったのです。穏やかで、あんまりいい人で。あれどうかしたのかな、と思いました。お別れする時も目を細めて「あなたは本当にいいねえ。自由で。うらやましい。一切値引きしないで、いい仕事してくださいね」という、その言葉に本当に一切の嫌味がない。柔らかな手で握手され、分かりましたありがとうございます頑張ります、と、そこでは普通にお答えして別れました。

 週明けの月曜日、TBSの「NEWS23」で筑紫さんの「ガン告白」がありました。ヘビースモーカーの肺ガン、は僕の父と同じです。ショックも受けましたが、はっきり合点も行きました。

 1カ月後の6月22日、「常識の源流探訪」の第1回「なぜ『京都』なのか?」をアップロードし、翌週26日に筑紫さんの生前最後の本『対論・筑紫哲也 このくにの姿』が発行されました。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081110/176733/
 あれから1年半。先週までの連載は筑紫さん闘病の1年半と重なっています。病室でもネットは見られます。記事の想定読者の中には常に筑紫さんがいました。個別の問題に関しては、筑紫さんと私はいろいろ異なる意見もありました。でも地球環境問題、CSR、詐欺の経済学、裁判員制度、セックスの脳機能可視化、物理、本業の音楽、ノーベル賞、自衛隊…何もそこまでやらなくてもと、音楽の仲間からたしなめられながらも「ジャンルを問わず」「いっさい値引きせず」毎週連載を考えました。タブーにも挑戦する。でもある「良心」と「品位」は決して失わない。そんなふうに頑張ってこられたのは、あの人が読んで恥ずかしくないものを、という気の張りがあったからです。

 私がこのコラムのような文章を書くようになったのは40を過ぎてからのことです。音楽以外で文章を書いていたのは「現代思想」とか「現代詩手帖」といった芸術・思想雑誌で、ジャーナリストでもないし評論家でもない。不慣れなことばかりでしたが、たとえ下手でも、今病室で現場に行けない人もいるのだという意識が、力を与えてくれました。今回は特にその思いが湧き出て仕方ありません。

米国の覇権主義はいつ始まったか?

 ハワイが米国50番目の州になったのは1959年のことでした。まだ半世紀経っていません。州に昇格してすぐの61年、バラク・オバマはオアフ島のホノルル市で生を受けました。それから47年目に「オバマ大統領」が誕生しました。ハワイ州としても初めてのことです。

 ここで改めて、米国にとって「ハワイ」とは何だったのでしょうか?

 1776年の米国独立以来、東部先進地域から欧州移民が入植して「ゴー・ウエスト」西へ西へとフロンティアを追って拡大したのが米国の19世紀でした。

 カウボーイが活躍し、「大草原」には「小さな家」が建てられ、ネイティブ・アメリカン、いわゆる「インディアン」がすさまじい迫害を受けて故地を追われた西部劇の時代。しかし北米大陸を西進すれば、いつか太平洋で止まります。「果てなきフロンティア」と思われた米国の「西部開拓」は、1890年に終わりを告げました。

 でも今まで拡張一本槍だった米国の社会・経済はここで止まることができません。北米の陸地はなくなっても、目の前には太平洋があるじゃないか。これが新しいフロンティアなのだ、イケイケ、進出してゆこう、と合衆国は太平洋支配に乗り出します。

 ここで、よく考えれば「フロンティア」は西だけではありません。北には英領植民地に留まったカナダがあり、南にはスペイン語圏のメキシコがあります。しかし英国と戦うのは現実的でなく、メキシコも当時は軍事独裁政権の勢いが強く、交戦相手にはふさわしくありませんでした。

 そこで米国が最初にターゲットを定めたのは昔日のカリブ海の覇者、スペインでした。この老大国との戦争に勝てば、遠く太平洋の反対側、フィリピン植民地なども手に入れることができる。一挙両得です。

 こうして1898年、米国とスペインは米西戦争を戦い、予定通り勝利を収め、続いてフィリピン現地民とも戦闘状態に入り(「米比戦争」)、力にモノを言わせてこれを下します。こうして「米州自決」の「モンロー主義」を米国帝国は完全に放棄、時代は帝国主義が「世界分割」を争う20世紀に突入しました。

 この1898年、米西戦争の勢いの中で、さりげなく米国に「併合」された、もう1つの植民地があったのです。それが「ハワイ」だったのです。

ハワイを併合した大統領の暗殺

 米国が独立戦争を戦っている頃、ハワイに初めて英国船が来航しました。キャプテン・クックの一行です。こうして、平和だった島と欧州人の行き来が始まりました。

 日本の「種子島」に鉄砲が導入されて「織田信長政権」が生まれたように、ハワイにも武器弾薬が入ってくると「強力な王権」が誕生します。フランス革命と並行して成立したカメハメハ1世(大王)の政権です。日本では童謡のイメージが強いですが、カメハメハ政権のイメージはむしろ終戦後の沖縄に近いかもしれません。

 欧州では大革命後、ナポレオン戦争とウィーン会議から国民国家が作られ、米国も「モンロー主義」新大陸の自決を打ち出します。ハワイもまたこの遠い遠い影響を受け、1840年には英国型の立憲君主制を導入しました。日本では老中水野忠邦が不良債権の強制破棄政策(「天保の改革」)に失敗している頃、ハワイには憲法があったのです!

 ちなみに19世紀前半の立憲君主国として、他に1809年に革命を成功させたスウェーデン王国があります。これはノーベル賞との関係で次回以後にまた触れるポイントの1つです。

 明治維新で日本がレジーム・チェンジし、拡張主義を主張して日清戦争を準備していた1893年、米国ではフロンティアがなくなり、ハワイに移住していた米国白人農園主が軍事クーデターを起こしました。彼らが米国本土では分がなかった民主党系であるのは言うまでもないでしょう。

 白人農園主たちは「米国への併合」を求めました。しかし民主党選出のクリーブランド大統領は当初、併合に後ろ向きでした。そこで彼らは白人主導の「ハワイ共和国」建国を宣言します。

 しかし、ほどなく96年に大統領に就任した共和党のウィリアム・マッキンリーは「米国のことは米国で」という独立不介入の「モンロー主義」を放棄してしまいます。

 こうして米国は帝国主義政策を全面推進し始め、米西戦争が引き起こされます。そしてどさくさに紛れて「来るべき20世紀の未来、米国太平洋支配の軍事要衝」として「満州国」ならぬ「ハワイ共和国」が「併合」されたのが「米自治領ハワイ」植民地に他なりません。

 そしてこのハワイを併合したマッキンリーもまた、暗殺によって命を落としました。前回触れなかった「3人目の暗殺された大統領」は、帝国主義米国覇権の生みの親で、ハワイ併合の張本人だったわけです。もしマッキンリーの併合がなければ、ハワイは米国ではありませんでした。当然ながら「オバマ大統領」という存在も不可能だったわけです。
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太平洋支配のための基地諸島

 「米国のハワイ」は、その当初から基地の島であることを運命付けられた、特異な植民地でした。

 そもそも人種構成がオーソドックスな米国ではありません。乱暴に言って

 * 半分がアジア系
 * 4分の1が白人
 * 残りが「その他」

 という社会で、主流の「アジア系」最大勢力が「日系人」というのが「ハワイ州という米国」です。

 第2次世界大戦中、欧州戦線で片腕を失った英雄ダニエル・イノウエ(井上建)氏が現在まで日系人唯一の上院議員を務めているのも、また、その強い推薦で、日系人として初めてエリック・シンセキ(新関)氏が米陸軍参謀総長に就任したのも、背景には「パールハーバー」真珠湾攻撃という決定的事実があります。

 シンセキさんという日系米国軍人が、自衛隊で言えば「幕僚長」に相当する米陸軍のトップとして、「多数武力によるイラク制圧」を主張して、共和党の「文民」ラムズフェルド国防長官の「少数武力投入」戦略と対立する。

 それ以前に、ハワイ出身で唯一のアフロ・アメリカンの上院議員だったオバマがイラク戦争に反対する。

 そのオバマが大統領になった時、共和党政権でイラク戦争を指導したコリン・パウエル国務長官・元統合参謀本部議長(自衛隊で言えば統合幕僚長)が、オバマ政権に加わって外交に関して共和党政権の政策を引き継ぐ可能性がある…。

 「ハワイ出身のオバマ大統領」と日系人や軍などの間には、内部に幾重にも緊張と対立を孕む、大変にデリケートな状況があります。

基地の島のボヘミアンの子

 バラク・フセイン・オバマJr.は1961年、ハワイ大学で出会ったケニア人留学生バラク・オバマと、カンザス州出身のアイルランド系白人女性で、人類学を学んでいたアン・ダナムの間に生まれました。しかし両親はオバマが2歳の時別居、3歳で離婚してしまいます(ちなみにオバマの反対勢力は、この父親がイスラム教徒であるため、現在はプロテスタントのキリスト教徒であるオバマを、生まれつきのイスラム教徒と「非難」しました)。

 「崖の上のポニョ」は「さかなの子」だそうですが、オバマは米国最辺境の基地の島ハワイで、身分は「学生」ながら実質はインテリ移民の低所得層、ボヘミアン的な社会で生まれた子でした。ハワイの黒人比率は全人口の1%程度です。黒人系混血という、ハワイという辺境のさらに少数派の中の、さらに徹底したマイノリティーの中にオバマは生を受けました。

 父親は彼が4歳の時にケニアに帰国、10歳の時一度だけ再会しますが、オバマが21歳の時自動車事故が元で死亡してしまいます。

 母1人子1人の母子家庭となったオバマが小学校に上がった8歳の時、母アンは、やはり大学で知り合ったインドネシア人地質学者ロロ・ソエトロと再婚しました。このためオバマはインドネシアに移住、11歳までジャカルタで教育を受けます(オバマの反対勢力は、この再婚と移住によってオバマは米国での参政権を失ったとして裁判を起こしています)。

 インドネシアで初期教育を受け始めたオバマ少年でしたが、11歳の時両親の別居でホノルルに戻り、中学以後の生活をハワイで送ることになります。

 さらに1977年、母が仕事でインドネシアに戻るため、16歳の高校生オバマ少年は母の両親に預けられ、思春期後期を親から離れておじいちゃん・おばあちゃんと過ごすことになります。母と継父の間には9つ違いの妹が生まれましたが、二度目の父親はオバマが19歳の時母と離婚、その2年後、ケニアに戻っていた実父が亡くなりました。オバマは単純でない家族環境の下で多感な時期を過ごしました。

 どうでしょう? オバマ君という1人の少年が、どういう生い立ちで成人を迎えたか、報道と少し違うイメージを持っていただければと思います。ただ、ハワイに戻ったバラク・オバマは、地元では有名な私立一貫校プナホ学園で学び、金品や物質的には質素な暮らしながら、高度な教育を受けています。複雑な家族環境ですが、グレて暴走族になったりはしていません。

米国本土へ、そして東海岸へ

 しかしこの当時、大してグレこそしなかったけれど、オバマ少年は世界のすべてに嫌悪感を持ち、全部が憎いと思っていました。無理もありません。高校時代はバスケットボール部に属しながら、喫煙や飲酒、それに大麻やコカインなども試してみた、と自伝で告白しています。アレックス・ヘイリーの小説『ルーツ』が一世を風靡していたころのことです。

 1979年、高校を卒業したオバマ少年は、地元での進学を選ばず、とハワイを飛び出して米国本土、カリフォルニア州の私立オクシデンタル大学進学を選びます。

 米国西海岸、カリフォルニアでの新しい大学生活は、インドネシアでの小学校時代、ハワイでの中学高校時代と全く違う刺激をオバマ少年に与えました。オクシデンタル大学は米国のいわゆる「リベラルアーツ大学」で、これといった専門を修めるのでなく、むしろ幅広い話題を駆使して「問題解決能力」を高める「強力な交渉相手」タフ・ネゴシエーターを育てるような教育を施します(ちなみに、こういう足腰のない社会に「陪臣制度」を変形した新司法を導入しようとしているのが今の日本であるわけです)。

 ハワイの箱庭で少し世をすねていた「おじいちゃん・おばあちゃん子」のオバマ少年は、単身カリフォルニアに飛び出して、少しタフになります。さらにここできっかけを掴み、3年次からは東部ニューヨーク州の名門、コロンビア大学に編入学して政治学、国際関係論などを学びました。

 米国最辺境のハワイから、一時インドネシア人の継父のもと、ジャカルタに移住して、そこで小学校の同級生たちを得た混血マイノリティーの彼が、西海岸→東海岸とメインストリームに漸近して、途上国や弱者を援助する政治学、国際関係論を学んでコロンビア大学を卒業している。彼は半端ではない、筋金入りのマイノリティー・インテリジェンスです。

 オバマという1人の高い知性を持つ男の本質を理解し、また、必ずしも彼の意のままにはならないだろう、今後の「オバマ挙国一致政権」の経済・外交政策を読むうえでは、こうした原点をきちんと理解しておくことは、とても大事なことだと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081110/176733/?P=3
オバマの外見と彼自身の内面

 私はバラク・オバマその人をまだ知りませんが、人から漏れ聞く限り、一緒に仕事をしても普通に信頼できる、きちんとしたインテリという印象を持っています。本人は、普通に大学で法学部教授をしながら、人権関連の法律業務に広範な活動をしていて全然おかしくない、まともな分別が通じる人だと聞いています。親から継いだ莫大な遺産とか、選挙区の事情とか、特定業種の利益だとかで、怪しげな言動をする人物ではありません。これだけで、どの国とは言いませんが、政治家としては天然記念物級に珍しい、貴重なことです。

 また特に生い立ちについては、インテリの母子家庭で母親が一人息子をどう育てるか、とか、次回も引書きますが、青春時代、亡くなった父親像を求めてケニアを彷徨する過程など(私事にわたって恐縮ですが、私自身も少し似た生い立ちなので)実感が沸く気がします。

 「基地の島」についても、実は私自身「立川基地」(現在は自衛隊駐屯地+昭和記念公園)と「横田基地」という2つの基地に挟まれて育ったので(当たっているかどうかは別として)混血の子の気持ちなど、知っていることがあるために、かなりリアルな想像ができます。

 そこで日本で語られるのを見たことがなく、国際社会では分かっている人には当然のポイントを1つ記したいと思います。

 それは「外から見るオバマ」と「オバマの内部から見る外」の非対称性です。

 今回書いているトピックスに、米国本土での選挙戦に歴史的な勝利を収めた「黒人」という要素が出てこないのにお気づきでしょうか?

 後に北米大陸で黒人社会と正面から向き合い、やがて本土出身のミシェルと結婚するオバマは、リンカーンが解放した「奴隷」の子孫としての米国黒人層にとっては(文化人類学的な表現をとれば)「外部から来た王」なのです。

 そして、その「王」(比喩としての用語です)を、既得権益を囲い込んでいる米国白人社会が、仮に一時的であっても「大統領」として承認したのは、判断を下す白人層が、オバマが「混血」であることに、深いレベルで仮託しようと考えたからだと思われます。

瞼の母は白い顔

 読者の皆さん、よろしければぜひイメージしてみてください。

 ハワイでの幼児期、あるいはインドネシアに渡った小学生時代、学校や公園でケンカしたり、ことによると泣いて帰ってきたりした時、オバマが「ママー」と飛び込んでいった母、アン・ダナムの顔の色は何色だったでしょうか?

 彼の瞼に焼き付いているのは「白人の母の顔」に他なりません。

 あるいは、その母が研究で多忙を極め、ハワイに残された高校生のオバマを、常に変わることなく可愛がり、選挙戦末期に亡くなったオバマのおばあちゃん、マデリン・ダナムの皮膚の色は何色だったでしょうか? もう申すまでもないでしょう。

 オバマは、白人の母の顔を原体験として刷り込み=「インプリント」されている「本物の混血児」なのです。

 彼の精神の本質は「純黒人」ではない。そこが決定的なのです。

 もし「動物」と「鳥」の戦争なら、こうした「コウモリ」のような存在は一番弱い立場にもなり得ます。しかしその「コウモリ」的な立場をバネとしテコとして、オバマは奇跡のような戦略を組んで、実際に大統領に当選することに成功しました。本当にすごいことです。

 もしオバマが「純粋なブラック・アメリカン」だったら、既得権益を持つ白人層は決して、一時的なりともオバマを担ごうとは考えなかったでしょう。

 オバマは、父祖の怨念を込めて「他者としての白人」に敵意の目を向けるブラック・アメリカンではないのです。アレックス・ヘイリーの『ルーツ』は、祖先のクンタ・キンテ以来の悲惨な「歴史的経緯」に縛られてしまいます。でもオバマにはそれがない。

 オバマは決して「白人だから」という理由で、理不尽を働かないだろう。そういう信頼感がなければ、オバマは決して民主党候補にはなれなかったでしょう。

世界の知性・移民系米国人

 逆に民主党での選挙戦に勝った時点で、世界は彼を選択しました。私個人もそう思いましたし、例えばノーベル賞もそのようになりました。これは経済学賞のポール・クルーグマンだけではありません。

 1カ月前の10月10日「日本にノーベル賞が来た理由」の最後に「ちなみに皆さんは、今年の自然系ノーベル3賞での『欧州系米国人』の数の少なさにお気づきでしょうか? スウェーデン・ノルウェーが胴元の『科学の最高権威』承認をめぐるゲームには、経済学賞や平和賞と同様、様々な水面下のやり取りが存在します」と書きました。これはオバマ次期大統領を念頭に12 月の授賞式をデザインした側面があります。

 「日系米国人」の南部陽一郎教授、下村脩教授。あるいは下村さんと一緒に化学賞を受賞した「中国系米国人」のロジャー・チェン教授。すべて「非白人系」の「移民米国人」科学者・知識人という点で、シカゴ大学法学部教授になって全くおかしくなかったバラク・オバマ法学博士と同じ仲間に括られる「移民系米国知識人」に他なりません。

 そして、今もし南部・下村両先生の受賞を「米国日系人社会」という尺度で見ると、私たちは再びダニエル・イノウエ・ハワイ州上院議員と出会うわけです。
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「真珠湾」が先鋭化した日系米国人

 日本軍が真珠湾を攻撃した時イノウエ少年は18歳でした。敵国系として差別された彼らは、米国への忠誠をハッキリとした行動で示さねばならなかったのです。

 彼は米軍に志願して「ノルマンディー上陸作戦」で知られる欧州戦線でドイツ軍と交戦して右腕を失います。こうして医師志望だったイノウエ青年が政治家となり、85歳を迎えた今日、ハワイ州のマイノリティー出身のオバマ上院議員が大統領選挙を征したのです。

 「田母神空幕長」の問題に関する前々回の記事に、非常に多くのコメントを寄せていただきました。ありがとうございます。これについては来週以後「文民統制」の問題などを、原点から論じるつもりですが、少しだけ補足したいと思います。

 現在、穏健な親日派の最右翼として知られるイノウエ氏ですが、六十数年前には実際に欧州戦線で戦い、瀕死の重傷を負った兵士でした。

 イノウエ氏のように第二次世界大戦で闘った世代の米国日系人指導層が、戦後生まれの、子供か孫みたいない日本人が、経験に基づかない発言をするのを、どのように見ているか、ご想像頂けるでしょうか?

 戦後63年間、日米両国の調和発展に尽力してきた80代90代の人々は、いま70代以下の「戦争を知らない世代」が、知らないからこそ可能な挙動を「簡単にしてしまう」ことを、真剣に危惧しています。

 前々回、マイク・ホンダ議員の「従軍慰安婦問題非難決議」でも、こうした「若い世代の人たち」がワシントン・ポストに掲載した意見広告へのイノウエ氏の反応に触れました。

 かつて現実に起きたことを知っている人々は、細かい主張の如何以前に、想像に基づく短慮と短絡的な行動を、何より警戒して見ています。

将たるもの仮に退いても身を慎むべし

 2008年、歴史は大きく動きました。誰がこの1年の激動を、事前に予測したでしょうか? 

 それを予言出来なかったからといって、誰をも責めることは出来ません。

 田母神氏が応募した懸賞「<論文>」は、一企業が企画して2008年5月10日から募集が始まったものだということです。ということは、どんなに遅くとも連休前にすべての予定が立っていたはずでしょう。3カ月の募集期間、審査、10月末日の発表、ちょうど12月8日が真珠湾で良さそうな日だから、ここで授賞式を行おう…他の推移を見る以前に、こういうシナリオを立てて、企業は予算を執行しているのだと思います。

 これが動き始めてから、世界で何が起きたでしょうか?

 この「論文募集中」の6月4日、米国民主党の大統領候補戦でヒラリー・クリントンが敗北を宣言し、バラク・オバマ候補が確定します。サブプライムローン問題に端を発する米国金融は不安状況が続き、原油価格は高騰していました。

 8月8日、世界が「平和の祭典」北京オリンピックの開会式に注目したその日、グルジア軍が南オセチアに侵攻して平和維持軍として駐留していたロシア軍と交戦状態に突入します。翌日ロシア軍の反撃は本格化し、グルジア全土をロシア軍が空爆、紛争にすぐさま介入したのは欧州で、フランスのサルコジ大統領の調停によって8月13日にロシア・グルジア間の和平合意が成立しますが、この間、米国は指1本動かすことができませんでした。

 ようやく20日になって米海軍の黒海への艦隊派遣が決まりますが、オリンピック明けの26日、メドベージェフ大統領は南オセチアとアブハジアの独立を承認、29日にグルジアとロシアは国交を断絶します。

 これを挟むように、航空自衛隊内では8月4日に「懸賞論文」の募集が行われ、ロシア・グルジア紛争が全部終わるのを見届けたはずの8月31日に、募集が締め切られたようです。いったい誰が何を見ていたのでしょうか?

 冷戦崩壊後「アメリカの平和」パックス・アメリカーナと言われた時代が、完全に終わってしまった。歴史の一大転機が訪れましたが、「アパ・グループ」の「真の近現代史」云々はこうした流れと無関係に、企業の決めた日程どおりに「選考」や「論文の翻訳」をこの時期進めていたと思われます。

 米国が世界の警察として機能しないことが明らかになって間もない9月15日、米国の投資銀行大手リーマン・ブラザーズが破綻して、米国発の金融不安は世界に波及します。

 各国の協調介入で世界恐慌の回避が図られる中、米国では大統領選挙戦が終盤を迎えていた、そんな10月31日、世界のあらゆる動きと無関係に、日本の一企業が予定した通りの日程で、現役の航空幕僚長が政府見解と異なる政治見解の「<論文>」を発表、直ちに更迭されたのでした。政府は懲戒処分の手続きで、田母神氏が制服を着たまま「持論の記者会見」などを行って、自体が国際的に収拾不能になるのを恐れ、もっとも傷の浅い「定年退職」という前例のシナリオで、11月3日、前空幕長にご退場を願いました。

 その翌日、歴史的な米大統領選挙によってオバマ氏が第44代合衆国大統領に当選したのです。

 私は「KY空幕長の国益空爆」という前々回の記事を書いたのは、まさにこの投票直前でした。

 そこでは、アパ・グループのホームページにあるように、事もあろうに12月8日という日を選んで英語で国際発信などしたら、何が起こるか考えてほしいと指摘するにとどめましたが、その翌日「ハワイ州オアフ島出身のオバマ大統領」が誕生するに至ったわけです。

 「真珠湾出身のオバマ大統領選出」の後ですら「そんなの関係ねぇ」と、自分たちが予め立てた世界の変化と何の関係もない日程を墨守して行動すれば何が起こるか、それを関係者に改めて考えてほしいと思うのです。

 少なくとも、事前に行動が読みやすい軍隊くらい、攻撃しやすいものはありません。

 もし私が米国側の観点で日本の軍事に難癖をつけようと思うなら、こんな「鴨が葱背負って予定通りに飛んでくる」ようなケースは見逃さないと思います。

 ごくごく常識的な分別があれば、状況の変化に即して自らの行動を律するのではないかと思います。かりそめにも一国の武力を率いた将たるもの、仮に退いても身を慎むべき緩急は、わきまえる必要があるでしょう。

オバマ以後、真珠湾を再び口撃するか?

 南オセチア紛争は、米国1国覇権の時代が完全に終わったことを全世界に知らしめました。

 グルジア共和国はれっきとした国連加盟国です。ロシアは満州国ならぬ南オセチアとアブハジアの「独立宣言」をしましたが、米国は何の役にも立たず、とりあえずの和平を取り持ったのはEUのフランス大統領でした。

 北京オリンピックの陰に隠れ、武力にモノを言わせたロシアの行動が、いま国際社会から袋叩きにあっているか、といえば、そんなことはありません。みな、悪化する経済状態のなかで様子を見合って動くに動けない。それを判った上でのロシアの作戦勝ちでしょう。

 すでにコソボへのNATO軍の空爆などがあるので、ロシアは今回の武力行使を既成事実にしてしまうでしょう。

 ドルの威信が地に落ちた米国は、もう1国で世界の治安など守れるわけがない。円への協力要請も1987年当時とは比べものにならないほど低姿勢だと聞きました。

 いま必要なのは、国際協調による新しいパワーバランスの確立と和平の維持であるのは間違いありません。北朝鮮もテロ支援国家の指定を解除されました。

 そんな中で、軍役を持たないオバマ氏が米国大統領に当選し、外交に関してはコリン・パウエル氏がブッシュ政権以来の一貫性を保とうとしている。

 この重要な局面で、日本が米国の顔面に唾を吐きかけるようなことをして、欠片ほどでも良いことがあるでしょうか。

 実際、確かに米国は弱くなっています。そこで「それ見たことか」といわんばかりに、12月8日真珠湾の記念日に「日本は引き込まれた被害者」という「<論文>」を、直前まで日本の航空武力の最高司令官だった人物が英語で公開するほど効果的な「あっかんべー」、米軍の神経逆撫ではないのではないか。少なくとも、あらゆる私の想像を超えた出来事としか言いようがありません。

 (読売新聞が報じるところによれば、この「授賞式」の呼びかけ人の中には、羽田・森・安倍の歴代3代の首相経験者の名が入っているそうです。いま知り合いに確認してもらっているのですが、支援企業からの要請で、秘書がトンネル的に元首相の名を並べてしまったのなら、これは事故によるスルーでしょう。

 報道によれば、田母神氏は辞任を求められたとき、森・羽田・安倍氏らの名を挙げて、防衛事務次官や中川防相の指示に従わなかったとのことです。もしこれが本当なら、日本の文民統制は肝心なポイントが脱臼していて、危機にあって機能しないことになってしまいます。

 12月8日真珠湾の日に 日本は太平洋戦争の被害者だったと主張する 現職あるいは直前まで職にあった航空幕僚長を顕彰する というようなことに もしもなりかかっているのであれば、早急に手を打たねばなりません。今日、田母神氏は国会に参考人招致とのことで、急いで補足しました)

 しかもその米国は、真珠湾のベッドタウン、ホノルル出身のオバマ大統領を擁し、地元ハワイには日系人を始めとする広範なオバマ支持層があります。

 時宜の必然性を欠き、内容の妥当性、客観性を吟味しない主張を振りかざすことは、多くの人の目に国際関係のデリケートな空気「K」を一切読まない「Y」愚挙としか映りません。

 さらにそれが、露骨な「あっかんべー」になるとすればこれはもう、言葉がなくなってしまいます。

 今年の12月8日に誰がどう行動してもしなくても慎重なオバマ氏自身は何も発言しないでしょう。

 しかし、来るべきオバマ政権には彼の側近の日系人もいます。真珠湾で空爆された白人の子孫を含むハワイ人社会も、オバマ氏をがっちりサポートしている。

 12月8日に不用意な行動で真珠湾を再度「口撃」することが、どういう国益阻喪に繋がるか、想像するだに悪寒がします。

 戦後生まれで1971年に任官した田母神氏より、たった6歳年上なだけですが、ベトナム戦争を体験し、軍役の最後はブッシュ政権下でイラク戦争を率いたエリック・シンセキ元米軍参謀総長のようなハワイ州出身親日派の軍関係有力者にとって「真珠湾」カードがどういう意味を持ってしまうのか。

 ワシントン・ポスト紙上に、戦後世代の評論家や国会議員が署名して掲載された「従軍慰安婦意見広告」ですら、穏健なイノウエ氏をして日本に180度背を向けさせる効果を持ちました。

 それが、米国一極集中が破れ、いま国際協調がこれほど急がれることのない、歴史の大きな転換点にあって、日本でつい先日まで「武力を率いる司令官」だった人物が、これみよがしに「真珠湾の日」に「日本は引き込まれた被害者」と英語で「国際発信する」というのは、すでにKYとかそんなレベルの話ではなく、日本の未来を危うくする「ジョーカー」のようなレッドカードとしか言いようがありません。

 ここまで書いても、まだ理解してもらえない人は必ず残るでしょう。でも、その人たちのためにこそ、責任ある立場の人は、もっとも思慮分別を持った立ち居振る舞いを求められるのに他なりません。

 「覆水」は放っておいて「盆」に返ることは、普通はないのです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081110/176733/?P=5
引き裂かれた自己のぎりぎりの叫び

 オバマが大観衆を前に「ブラック・アメリカンもホワイト・アメリカンもない、私たちは同じ『アメリカン』なのだ」と語った時、米国人は「本当の変化が来るかもしれない」と思いました。

 黒人も白人も、満場の聴衆が彼に希望を託したのは、オバマに「カリスマ」があるとかないとかいう理由からではありません。

 褐色の皮膚を持ち、外見はブラック・アメリカンから強い親近感を抱かれながら、白人の母の面影を瞼に浮かべるオバマは、本当は繊細なガラスの心臓を持っています。

 内と外からの理不尽な力で、ほとんど引き裂かれそうになりながら、不可能を可能にしてきたオバマという1人の男のぎりぎりの魂の叫びがあります。そんな彼が大統領に選ばれ、彼の心を、やはり虐げられてきた無数の人々が正しく理解している。これこそ米国史上に、前代未聞の状況だと思います。

 酸いも甘いも噛み分けた彼が、落ち着いた口調で力強く希望と可能性を語る。本物なんです。だから子供まで感動する。お小遣いまで献金した。本当に動き始めているかもしれない。だからこそ、目の前にあるのは「希望」以上に、「莫大なリスクの塊」でもある、と危機管理の観点も備えて考えるべきなのです。

 そういう器量のある政治家や国防関係者の分別を、日本で期待することができないのでしょうか?

 本当はこの状況、筑紫さんにこそ相談して考えたかった。せめてあと1週間、どうにかならなかっただろうか。改めて本当に残念です。

 それが適わなくなってしまった今、筑紫さんだったらどう考えただろう? どう準備し「多事争論」などでどう発言しただろうか、と自分の中で彼と対話しながら記事をアップロードすることが、僕にとっての「追悼」の形と思っています。

(つづく)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20081110/176733/?P=6

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  • ニュース・コメント・ブログ「膳所狒々新報」主筆。
    立ち位置は外交安保教育刑事分野で右、社会経済分野で左。
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    膳所の某所山奥に在住の好色酒好き秘湯ヲタの絶倫狒々(冷凍力)が戯言を宣います。キーワードは是々非々(部分否定・部分肯定/全否定・全肯定)。
    別荘は西九州。
    最近のマイ・ブーム・・・リョーユーパンのマンハッタン、湖池屋のカラムーチョ・スティック、キリンのストロング・セブン、Wエンジン、COWCOW、鈴木Q太郎(ハイキング・ウォーキング)のヤマタイコク(ヒミコサマ)、神戸蘭子、寺田ちひろ、佐々木希、新妻聖子、喜屋武ちあき、浜田翔子、中村静香、杉原杏璃・・・等々。


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